スペインやギリシャは、大きな貿易赤字を抱えています。国から富が流失し続けています。ふつう貿易が赤字に偏ると、その国の通貨は下がります。統一前のギリシャの通貨はドラクロアでした。統一前なら、ドラクロアが下がって、輸出競争力がつきます。それによって、貿易収支が改善します。これでギリシャの景気は回復していくのです。ところが統一通貨ユーロのおかげで、この為替変動によるボーナスを、ギリシャは受けとることができません。ユーロの通貨価値は、ユーロ全体の経済力によって決まります。ギリシャ一国の貿易収支では決まりません。統一通貨ユーロは、ギリシャの実力以上の高さなのです。
これとは逆に、ドイツのような巨大な貿易黒字国では、ふつう通貨が高くなります。統一前のドイツなら、マルク高になります。しかしこのケースでも、統一通貨ユーロのおかげで、通貨高になりません。だからドイツはいつまでたっても、輸出競争力が失われず、貿易黒字による利益が蓄積し続けるのです。
貿易収支による、為替のスタビライザー機能について、説明しておきます。たとえば、日本は東北震災前までは、貿易黒字大国でした。だから1ドル360円から、1ドル70円台まで、円高になりました。貿易が黒字だということは、輸出超過ということです。海外に物を多く売っているということです。物が売れたときは、ドルで代金を受けとります。そのドルを国内に持ち込むときには、ドルを円に換えなければなりません。ドルを売って円を買うのです。円の需要が増大します。これで円の価値が高くなるのです。
このようにEUでは、経済の強い国はより強く、弱い国はより弱くなります。今のEUではこれを解決する方法はありません。